焼酎野郎がリスタート、“焼酎と過ごす楽しみ”広めるブランドに
SHOCHU Xは2021年秋、再スタートを切った。新商品の「煌星(きらぼし)」を発売すると共に、既存商品の「希継奈 -kizuna-」をリニューアル(容量やパッケージを変更して価格改定)。“高品質な焼酎がもたらす豊かな時間”にフォーカスして魅力を発信していく。2020年4月の創業から1年半。リブランディングの狙いから中長期の構想まで、SHOCHU X代表橋本が語る。
価格ばかりが注目される状況を変えたい
―― ブランドを再定義した経緯を教えてください。
橋本(以下同):創業から8~9カ月が過ぎた頃、自分が目指していたことと現状にギャップが生まれているのに気づいたことがきっかけです。
創業からの経緯をお話すると、僕は焼酎を世界で飲まれるお酒にしたくて、それには業界全体の商品構成ピラミッドに“頂点”(高品質で高アルコール度で高価格な商品)が欠けていると考えました。そこで、老舗の酒蔵・ゑびす酒造(福岡県朝倉市)と提携して、特別な製法(全麹3段仕込み)の40度の麦焼酎に、品質に見合った値付けをして売り出すことにしたんです。
おかげさまで売れ行きはまずまず。ご購入くださったお客さまからも好意的なご感想をいただけました。
ただ、いびつな状況も徐々に見えてきました。「贈答品にはちょうどいい」「普段飲みしにくいけど特別な日に開けよう」「高いだけあって美味しい」「このパッケージはお値段ほどじゃない」など、手に取る動機や飲み方、感じ方が、価格に引きずられているようなのが気になってきて。
―― 価格の話が先に立つせいで、せっかくのいいお酒が日常生活には取り入れられなかったり、いざ味わうときに価格情報がノイズになったりしていたんですね。
頂点を狙って送り出す商品だったので、高級志向を前面に押し出したのですが、その結果、価格の印象が強くなりすぎてしまったんだと思います。PRの仕方を誤ったせいで、お客さまが焼酎を楽しむジャマをしてしまったというか……。
モヤモヤしながらも新商品の準備を進めるなか、デザイン回りを憧れのSAGA(江東区)にお願いしました。それが今年1月頃。ところが4~5カ月経ってもデザインは完成しなかった。今思えば、既存の商品と同じラインナップに新商品を入れようとすると当然、踏襲すべきところが出てきて、それがこれから実現したいことと合わなくなっていたんだと思います。
6月頃、(SAGA代表の)寒河江(亘太)さんから「いっそリブランディングしませんか」と提案されて、ああ、そういうことだと思って。「リブランディング」の一語で、自分の思いに気づかされました。デザインの前に僕は、価格一人歩き状態を脱して、焼酎文化をちゃんと広めるブランドに変えたいと思っていたんだなって。
焼酎とハードリカーの性格を合わせ持つ新しい酒を
―― 新生SHOCHU Xは具体的に、これまでの何をどう変えるのでしょうか?
リブランディングのコンセプトは「TRANSFORM SHOCHU」。社名の「X」がtransformを表しているので、これまでと変えたというよりは、本当にやりたかったことに立ち返った感覚です。焼酎を変革して、焼酎を通じた体験を変革したい。
具体的にどんな変革かというと、分かりやすいところでいえば、アルコール度です。25度が中心だった従来の焼酎に対して、希継奈も煌星も約40度。世界に出て行くために一般的なハードリカーと同程度の度数にしています。焼酎だけど25度じゃない、40度だけどハードリカーじゃないので、どんな飲み方ができるお酒なのか、僕らがこれから伝えていかなければいけないと思っています。
焼酎は食中酒として、ハードリカーは食後酒として飲まれることが多いですが、希継奈や煌星は、みんなとわいわい食事をしながらお湯やお茶やソーダで割って飲んでもいいし、一人でチョコレートをつまみながらストレートかロックで楽しんでもいい。大きくいえば、焼酎の再定義。商品そのものと顧客コミュニケーションの両面で、そこに挑戦していきます。
―― リブランディング第1弾商品となる煌星は、どんなお酒ですか?
麦焼酎で、シェリー樽で熟成した原酒と、タンクで貯蔵した焼酎をブレンドしたのが特徴です。シェリー樽由来の香りと、焼酎らしい風味の組み合わせ。バニラやシナモンを思わせる香りで、口当たりも柔らかな焼酎ができたと思っています。
ブレンドって、実は蒸留酒作りにおいてキモなんです。例えば、サントリーのシングルモルトウイスキー「山崎」はいつ飲んでも変わらない味がすると思いますが、実は貯蔵している原酒は樽ごとに風味が微妙に異なります。それをブレンダーと呼ばれる職人さんが巧みに組み合わせて、最終製品として常に同じ味を保っているんです。
煌星は昨年11月頃から僕とメーカー(ゑびす酒造)さんで新しいブレンドを開発しました。何百、何千という組み合わせで試飲して、最終的には5種類の原酒をブレンドしています。樽熟成が3種、タンク貯蔵は2種。貯蔵年数はほとんど10年以上、高品質なものばかりです。
当社は製造機能を持たず、メーカーからOEM供給を受けるスタイルです。一から造れないことは弱みですが、造らないからこそ“縛られない”ともいえます。
焼酎メーカーにはそれぞれ得意な原材料(芋、米、麦など)があり、伝統や地域性によって得意な製法があり、造るお酒には決まった特徴があります。それも素晴らしいことですが、僕らはコンセプトや味など、造りたいお酒を先に思い描いて、それに合う原酒を選んでブレンドすることができる。この自由度は、メーカーにはないものだと思います。
イベントなどさまざまな方法で“体験”伝える
―― 焼酎の魅力の伝え方はどう変えますか?
体験をイメージしてもらえるようにしたいですね。割っても大人のお酒として楽しめるので、何で割ると相性がいいか、お茶はお茶でもどんなお茶が美味しいか、そういったことも発信していきたいです。
これまでは、高価格が前面に出すぎて、肴も高級でなければいけないように受け取られていたと思うんです。でも、蒸留酒って本来、和食であれ洋食であれ、何にでもある程度合うもの。味覚の掛け算でいえばこれとこれだという科学的な話よりも、例えばストーリーを大切にして、原酒の産地の家庭料理や名物料理と合わせても素敵です。
そうしたペアリングごと、焼酎を取り巻く時間を見せていきたい。SNSなどで紹介するだけでなく、飲食店や食器・酒器のお店や異業種とコラボしてイベントを開いたりして、体験でも伝えられたらと思っています。
飲むタイミングも、ことさらハレの日に限定しないで、どうぞ普段から楽しんでと伝えたいですね。日本酒やワインなら、高級なものは本当に特別な日に1本空ける飲み方がいいのかもしれません。でも、焼酎は多くの場合、その日に飲み切れるわけではないし、飲み切るべきお酒でもないんです。蒸留酒なので、開封して時間が経っても味は落ちません。
これまでは高価格に注目してくださっている、その視線に合わせて「特別な日に」と言わざるをえなかったようなところがあります。でも僕は、焼酎がもたらすもっと多様で豊かな時間を表現したかったんです。
―― 今後について、計画や構想を聞かせてください。
直近ではクリスマスシーズンに、ユニークな焼酎を、また別のメーカーさんと組んで提供する予定です。詳細は追って発表しますが、この手の焼酎が市販されるのは、おそらく初めてのことになると思います。挑戦ではありますが、好きな人は大好きなはず。希継奈や煌星とは違った限定品の扱いで売り出していきます。
そして将来は、焼酎を自分たちで一から製造するつもりです。今のところは計画というより希望です。日本酒と焼酎の製造に関しては事業者の新規参入が事実上、制限されていて、現行制度ではメーカーを買収して酒類製造免許を取得するしか新規参入の術がありません。そのつもりがあることを日頃から公言することで、声をかけてもらえる機会を増やして、なんとか実現したいですね。
自分たちで造れるようになったら、ジンでいう「季の美」や「タンカレーナンバーテン」のように、高級感がありながらよく知られてもいて入手もしやすい、そんなマス向けのプレミアムブランドをなるべく早期に立ち上げたいと思っています。
将来のことにしろ、目の前の商品のことにしろ、焼酎のことを考えているのが、本当に楽しいです。これまでみたいに価格だけの話になってしまったら、正直、(焼酎マニアの)僕じゃなくても、むしろWebマーケティングに長けた人がやるほうがいいビジネスだったと思うんです。これからは、焼酎が好きだからできることをやっていく。僕は今すごく、わくわくしています。